看取り

アラ還

親が大きな病気になったら、急に亡くなってしまったら、そういう時のことを真剣に考えたことはありますか?

私は、親はいつまでも元気で生きているのが当たり前のように思っていました。

私の母はもう他界しましたが、20年くらい前のある日、突然倒れました。

脳梗塞で半身不随となり、長い間寝たきりの生活を送りました。

倒れてから半年くらいはしゃべりませんでした。

少しずつ話すようになりましたが、記憶に曖昧な部分があって、通帳がどこにしまってあるとか、どんな保険に入っているかとか、ハッキリしなくて困ることがたくさんありました。

介護保険を利用しながらずっと家で生活していたのですが、亡くなる前の2週間は病院に入院していました。

理想は家で眠るように亡くなることを、家族もおそらく本人も望んでいたのですが、低酸素状態になってしまい、家で過ごすことが難しくなってしまいました。

それまでにも、何回か体調を崩して入院をしたことがありましたが、今回はもうこれが最後だとわかりました。

入院して1週間くらいまでは話ができて、飼っている犬に「お母さん、帰るからって伝えて」と言ったことがありました。

でもだんだんと、低酸素状態のせいなのか、薬のせいなのかわかりませんが、意識がもうろうとして、話ができる状態ではありませんでした。

家族が来たことはわかっているようで、マヒがない右手を上げたり、話かけるとうなずいたりはしてくれました。

会話にはならなくても、母と目を合わせると「ありがとう」が伝わってきました。

瞳で会話はできました。

そんな中で、私が聞きとれた母の最後の言葉が

「家に帰りたい」

でした。

私は何度もうなずくことしかできませんでした。



私は仕事で訪問した先で、相続の話をすることがあるのですが、40~50代のお子様の方は「親に言いにくい」と言い、親の方は「まだ大丈夫」とおっしゃる方が多いです。

でもある日突然、選択を迫られた時に、決めるって難しいです。

お医者さんに「延命はどうされますか?」と聞かれたら、どう答えるでしょうか…

選択しなくてはいけないことの、どちらを選んでも後悔することはあると思います。

でも本人の希望通りにできたのなら、家族の気持ちが楽になるかもしれません。


そういう私も母の最後の2週間に「もっといろいろ聞いておけば良かった」と思いました。

母の人生がどんな風だったのか、楽しかった思い出とか辛かったこととか、長い介護生活の間に聞ける機会はたくさんあったのに…


山本文緒さんの『無人島のふたり』で、著者がガンで亡くなる9日前の最後の日記に、

ー とても眠くて 声がよく聞こえない ー

とあります。

私の母も眠かったことでしょう。


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